イオンの最先端AIルートに学ぶ、ラストワンマイルの正解——なぜ汎用AIの自社開発より「世界のプロ用アプリ」に目を向けるべきなのか
イオンの「Green Beans」が示す、人間に寄り添うAI物流へのリスペクト

昨今、物流業界の「2024年問題」や深刻な人手不足を背景に、多くの企業がAIを活用した配送ルートの最適化に乗り出しています。その中でも、私が今、最も注目し、心からリスペクトしているのが、イオンが次世代ネットスーパー「Green Beans(グリーンビーンズ)」で導入しているAIシステムです。
彼らが実現している「1秒間に1400万通り」という圧倒的な計算力によるルート最適化は、テクノロジーの観点から見ても素晴らしいの一言に尽きます。しかし、私が本当に感動し、声を大にして称賛したいのは、その計算スピードの速さではありません。
彼らのAIの使い方の根底にあるのは、「現場で働く人間の体の負担を減らし、持続可能な働き方を作る」という、人への優しさと寄り添いの姿勢です。
現在のラストワンマイル(宅配)の現場を見渡すと、残念ながら「AIが人間を限界までこき使う地獄絵図」のような光景が散見されます。AIの計算が弾き出した、休憩も考慮されていない「机上の空論の最短ルート」に合わせるため、ドライバーが必死に走り回り、無理な時間指定に翻弄される——。これでは、AIが主役で、人間がそのパーツ(奴隷)になってしまっています。
そんな歪んだ現状に対し、イオンのアプローチは真逆です。 優秀なAIを導入・維持するには、当然相応のコストがかかります。しかしイオンは、そのコストを「現場の人間を補助し、長く健康に、安心して働いてもらうための投資」として捉えています。
テクノロジーに人間を合わせるのではなく、人間が持続可能(サステナブル)であるためにAIの力を借りる。この「人間に寄り添うAI」の使い方こそが、これからの物流業界が目指すべき理想郷であり、イオンが示した最大の功績だと確信しています。
拠点配送と「ラストワンマイル(宅配)」は全くの別物
しかし、ここで一つ冷静に区別しなければならないポイントがあります。 イオンがグリーンビーンズで使っているのは、イギリスのネットスーパー専業大手「Ocado(オカド)」の、巨大な専用自動化倉庫とセットになった拠点配送(店舗・ネットスーパー)に極限まで特化したシステムです。
これは、膨大な「不特定多数の個人宅の荷物」を、個別のイレギュラー対応(不在、急な時間変更、持ち戻りなど)を繰り返しながら捌く「宅配のラストワンマイル」には、そのまま流用することはできません。
ここを勘違いしたまま、AIという言葉のトレンドだけで「これからは配送もAI自社開発だ!」と暴走してしまう企業が後を絶ちません。
陥りがちな罠:なぜAIの「自社開発」は現場で失敗するのか?
イオンのような成功事例を見て、今、多くの企業がこぞって陥りがちな罠があります。それが「OpenAIやGoogleの賢い基盤モデルを使って、自社で配送・巡回ルートを開発しよう」という動きです。
例えば大手飲料水メーカーなどでも、自販機の在庫データと連動させた独自の補充ルートを自社開発する動きがありますが、ここには大きな落とし穴があります。
テクノロジーの基礎がどれだけ賢くても、現場を知らない「自社開発」は高確率で失敗します。実際、Amazonの宅配や、飲料メーカーの自社開発ルートでは、現場が悲鳴を上げる「おかしなルート」が多発しているのです。
一番最悪なのが、「地図上の直線距離しか見ていない、命がけのジグザグ指示」です。

例えば、片側2車線の大きな道路があるとします。道路の左側にも右側にも、それぞれ自販機が並んでいます。 人間(プロのドライバー)がルートを組むなら、間違いなく「まずは左車線側の自販機を順番に回って、どこかでUターンして、今度は反対側の自販機を回収していく」というルートを組みます。それが一番安全で、結果的にスムーズだからです。
しかし、自社開発のAIがハジき出すのは真逆のルートです。 AIは「一番近い点」を機械的に結ぼうとするため、「左の自販機 → 右の自販機 → また左の自販機 → 右の自販機」と、道路を右へ左へと何度も横断させるようなジグザグのルートを平気で指示してきます。
AIの画面上(2D)ではこれが「最短ルート」なのかもしれません。しかし現実の道路では、対向車線が途切れるのを待つ大渋滞が発生します。それだけならまだしも、ドライバーが重い飲料を台車に載せて、走る車の間を命がけで横断して往復するような、安全性を完全に無視した「地獄の動線」が出来上がってしまうのです。
汎用AIは、データの処理は天才ですが、こうした「2車線道路の壁」や「ドライバーの安全」という泥臭い現場の現実を1ミリも知りません。
データ上の「机上の空論」を現場に押し付けた結果、ドライバーが危険な走行や無理な横断を強いられ、疲弊していく——。これでは、巨額の投資をして現場を壊すシステムを作っているようなものです。
そして、この「自社開発の限界」という問題は、飲料メーカーの自販機巡回だけでなく、これからAIルートを導入しようとしている「宅配のラストワンマイル」の企業においても、全く同じ罠として待ち構えています。
宅配の現場になれば、変数はさらに凶暴になります。タワマンの防災センターでのタイムロス、不在による持ち戻り、シビアな時間指定の重複など、生き物のようなイレギュラーが毎日発生するからです。現場の安全と動線を知り尽くした「プロのアルゴリズム」がなければ、宅配の自社開発なんて絶対に不可能なのです。
「どうせ海外のシステムは日本じゃ使えない」という思い込みを捨てる
こうお話しすると、多くの日本の物流関係者はこう思うはずです。 「そんなこと言ったって、海外の優秀な配送アプリなんて、日本の複雑な住所や軽貨物の狭い動線には使えないだろう」と。
ですが、本当にそうでしょうか?
よく考えてみてください。前半でご紹介したイオンの「グリーンビーンズ」が導入しているシステムも、元を正せばイギリス(海外)のシステムです。それをイオンは、日本の市場に見事にアジャストさせて大成功させています。
実は、世界基準のラストワンマイル特化型アプリ(仮にR社と呼びます)の多くは、技術的にはすでに日本国内の地図データやGPS、さらには日本語表示にも対応しています。
「日本じゃ使えない」のではありません。 日本の企業がその存在すら知らないか、「うちの現場は特殊だから」と言い訳をして、世界基準のシステムを日本の現場にアジャスト(適合)させる頭の汗をかいていないだけなのです。一から車輪の再発明をする巨額のコストがあるなら、すでに世界で磨かれたシステムをどう日本の現場に馴染ませるか、そこに予算と知恵を使うべきではないでしょうか。
結論:私たちが本当に探すべき、世界基準の検索キーワード
これからラストワンマイル企業が取るべき正解のルートは、自分たちで一からAIを育てることではありません。世界を見渡し、すでに現場の血と汗と涙を吸って磨き上げられた「プロのシステム」に目を向けることです。

もし、あなたが自社の配送網を本気でスマートに、そして「現場のドライバーの負担を減らす持続可能なもの」にしたいなら、Googleで「AI 自社開発」と検索するのをやめて、英語圏のテック市場に向けて次のようなキーワードで検索してみてください。
"Last-Mile Logistics AI Route Optimization"(ラストワンマイル物流 AIルート最適化)"Courier Route Planner App for Parcel Delivery"(宅配ドライバー向けマルチストップ経路計画アプリ)
そこには、単に最短距離を繋ぐだけでなく、「時間指定のシビアな組み合わせ」「不在時の再計算」「ドライバーが無理なく走れる人間の感覚に近い動線」が、最初から血肉として組み込まれたシステムが並んでいます。
テクノロジーに人間を合わせるな、現場のためのAIを選べ。 イオンが巨大な資本で示してくれた「人間に寄り添うAI」の理想を、今度は私たちがラストワンマイルの現場で、世界基準の知恵を借りて実現する番です。
