「あと3件でお届け」は、本当に便利なのか――顧客には見えるのに、現場では見えていないもの
SNSを見ていて、思わず手が止まりました。
「Amazonって、あと何件で届くか分かるんだね」
そんな投稿を見かけたからです。
配達が近づくと、「あと○件」という目安とともに、配達員の位置を地図上で確認できる。
正直、私は驚きました。
私自身、現役でAmazonの荷物を配っています。それなのに、受け取る側にここまで細かく配送状況が表示されていることを、知りませんでした。
もちろん、機能として便利なのは分かります。
- 「あと3件なら、そろそろ家に戻ろう」
- 「お風呂は荷物を受け取ってからにしよう」
- 「買い物に出るのは、もう少し待とう」
受け取る側がそうやって行動を判断でき、不在率が減るのであれば、配達する側にとっても間違いなくメリットがあります。だからこそ、私はこの機能そのものを全否定したいわけではありません。
ただ、毎日現場を走っている人間として、一つだけ引っかかったことがあります。
その「あと3件」は、本当に現場の「あと3件」なのだろうか――。
現場の「あと3件」は、そんなに単純ではない
Amazonの配達アプリが示すルートは、必ずしも「エリアの端から順番に、効率よく一方向へ進んでいく」形ではありません。
実際には、拠点から配達エリアへ向かったあと、なぜかエリアのど真ん中から配達が始まり、そこから何度も同じ場所を行き来するような順番が組まれることがあります。私はこれを、何度も“のの字”を書くようなルートだと感じることがあります。
もちろん、すべてのルートがそうではありません。ですが、現場のドライバーは常にこう考えています。
- 無駄な往復を減らしたい
- 休憩時間も確保したい
- 少しでも効率よく回りたい
そう考えた結果、ドライバー自身が判断して配送順を入れ替えることがあります。
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さらに、地図上では「すぐ近く」に見えても、実際にはそのまま行けない場所も存在します。
次の配達先の家が目の前に見えているのに、その道からは入れない。一度大きく回り込み、まったく別の道から入らなければ到着できない――。住宅地では、こうしたケースが頻繁に起こります。
地図上の直線距離と、車で実際に走るルートは同じではありません。
だからこそ、受取側の画面に「あと3件」と表示されていても、その3件を単純に順番どおり回れるとは限らないのです。

約束を守るために、あえてAIの順番を崩す
ドライバーが配送順を変更する理由は、作業効率だけではありません。「時間指定」を守るためでもあります。
現場では時に、「この順番のままでは指定時間に間に合わない」と感じる荷物が、AIルートのかなり後方に入っていることがあります。
たとえば、再配達で受取人が午前中を指定している荷物。そのままアプリの順番通りに走っていたら、どう考えても午前中にはたどり着けません。それを見つけた以上、ドライバーとしてそのまま放置することはできません。
いったんAIが示した順番を離れ、午前指定の荷物を優先して届けに行きます。
そして、その荷物が別のエリアにあった場合、配達完了後にわざわざ元の場所まで戻って「さっきの続き」から再開するとは限りません。それでは、かえって非効率だからです。
その場所から、次に効率よく回れる順番をもう一度自分で組み直す。すると、最初にAIが示していた配送順とは、まったく違うルートになります。
もしそのとき、ある受取人の画面に「あと3件」と表示されていたら、どう見えるでしょうか。
「あと3件だったのに、なぜ遠くへ行ってしまったの?」
きっとそう思うはずです。ですが、その画面には「なぜ離れたのか」という理由までは表示されません。
ドライバーは気まぐれに遠回りしているわけではありません。別の受取人との“時間の約束”を守るために、あえて順番を変えているのです。
※なお、現在確認できる日本の利用者側の表示では、「あと○件」はあくまで目安であり、配達順は担当者の判断で変わる旨が示されるケースがあります。つまり、システム側も「順番が変わること自体」は想定しているようです。
だからこそ、私はもう一つ考えてしまいます。
順番が変わることを前提としているのなら、残り件数と現在位置をここまで細かく見せる必要は、どこまであるのでしょうか。
行動は見える。でも、その背景までは見えない
私がこの機能を知って、一番引っかかったのはここでした。
配達員の位置が見えるということは、「配達していない時間」もリアルタイムで見えるということです。
たとえば、コンビニに車を止めている時間。
配達中でも、トイレには行きます。水分補給もします。特に夏場なら、飲み物を買うことだってあります。地域によっては安全に車を止められる場所が少なく、コンビニが貴重な休憩場所になることもあります。
それは決して仕事をサボっている時間ではありません。一日、安全に車を運転しながら働くために必要な時間です。
ところが、受取人から見えるのが「配達員の位置」と「あと何件」という情報だけだったら、どう受け取られるでしょうか。
- 「あと3件なのに止まっている」
- 「近くまで来ていたのに、なぜ離れて行ったんだろう」
- 「コンビニにいるなら、先に届けてくれればいいのに」
そんな風に思われてしまう可能性は、本当にないと言い切れるでしょうか。
もちろん、位置情報を見たすべての受取人がそう考えるとは思いません。
ただ、位置は見えます。でも、なぜそこに止まっているのかは見えません。
順番が変わったことは分かっても、なぜ変えたのかは見えません。
「行動は見えても、その背景までは見えない」。私はそこに、この機能の難しさを感じています。

休憩しないドライバーが「頑張っている人」になってはいけない
物流の現場では、休憩をどう確保するか自体がすでに大きな課題です。
それにもかかわらず、「配達員が止まっていること」まで受取人に可視化されることで、新しい心理的なプレッシャーが生まれてしまったらどうなるでしょうか。
- 運転しながらパンをかじる
- トイレも後回しにする
- 水分補給のために車を止めることさえためらう
そうして一件でも早く届ける姿勢が「頑張っている配達員」として評価されてしまうのだとしたら、物流の未来はむしろ逆方向へ進んでしまいます。
私は、位置情報を受取人に見せることが法的にどう評価されるかを議論したいわけではありません。
ただ、「荷物を届けるために必要な情報」と「働く人の行動をどこまで可視化するのか」の境界線については、もっと議論されるべきだと感じています。
顧客に見せる情報を精密にする前に
もう一つ、現場にいるからこそ感じる強い違和感があります。
現場では今でも、「システム上には荷物のデータがあるのに、実際の荷物が手元にない」というトラブルが起こります。逆に、「荷物はあるのに、必要なデータが正常に反映されていない」こともあります。これは私自身が配達現場で実際に経験していることです。
では、そうしたデータと現物のギャップが発生したとき、受取側に表示される「あと○件」という情報は、どのように処理されているのでしょうか。
(※今回確認した範囲ではそこまでの詳しい仕様は分かりませんでしたので、推測で結論を出すつもりはありません。)
ただ、私の中には「優先順位」に対する違和感が残ります。
「顧客に見せる情報を精密にすること」と、「配送業務そのものを精密にすること」はイコールではありません。
- AIが示した配送順を現場で組み替えなければならない現実がある
- 地図上では近くても、実際には大きく迂回しなければならない場所がある
- システム上のデータと、実際の荷物が一致しないトラブルもある
そうした現場側のズレが残されたまま、受取側には「あと○件」「現在位置」と、より細かな情報だけが表示されていく。
受取側への「見える化」をさらに進める前に、まず整えるべきものが現場側に残されているのではないでしょうか。
受け取る側の私は、「あと3件」を必要としていない
ここまで配達員側の視点で書いてきましたが、私自身も一人の生活者としてネット通販を利用します。
では、自分自身の荷物が「あと何件で届くのか」を知りたいかと言われれば――正直に言って、あまり必要としていません。
普段は置き配を指定していますし、「本日お届け予定」と表示されていれば、「ああ、今日来るんだな」と思うくらいです。
これは、私自身が物流の仕事をしているからかもしれません。
配送の現場では、日々さまざまなことが起こります。
- 予期せぬ道路状況の変化
- 荷物の取り違いやトラブル
- 悪天候によるスケジュールの遅れ
だからこそ私は、「明日どうしても使わなければ困るもの」を前日の夜に注文し、翌日の配送にすべてを委ねるような買い方はしません。
予定通り届くことを期待するのは当然ですし、便利なサービスを利用することが悪いわけでもありません。
ただ、物流は多くの人と、道路と、車と、システムを経由して、最後に自宅まで届くものです。途中で何か一つ予定外のことが起きれば、到着時間は変わります。
だからこそ、配送を「何時何分に来るもの」として生活に組み込むより、「今日届く予定のもの」くらいの余白を持って待つ方が、受け取る側にとっても気が楽なのではないかと思っています。
物流の未来は、「もっと見えること」なのだろうか
今、物流業界全体で、再配達を減らし、受取方法を多様化し、限られたドライバーで荷物を届け続けられる仕組み作りが進められています。
「受取人もまた、物流を支える一人になる」――これからの時代には、そうした視点も必要だと感じています。
その中で、受取人が配達員の現在位置と残り件数をリアルタイムで細かく監視・確認する方向へ進むことには、少し違和感を覚えます。
もちろん、「あと3件」が分かることで不在を防げるなら、それも一つの解決策かもしれません。
ですが、物流を持持続可能なものへ変えていこうとしている今、「もっと細かく見えるようにする」という進化は、本当に同じ方向を向いているのでしょうか。
未来の物流が目指すのは、
「あと3件まで見えなければ安心できない物流」
なのでしょうか。それとも、
「今日届く」と分かれば、あとは安心して任せられる物流
なのでしょうか。
テクノロジーによって物流が便利になることに、私は決して反対ではありません。
だからこそ、その便利さは「受け取る側」だけではなく、「届ける側」にも向いていてほしいのです。
受取人に見せる情報を、もっと精密にする。
その前に、届ける側の仕組みそのものを、もっと正確にする。
そして、荷物を運んでいる人が、当たり前にトイレに行き、水分を取り、休憩し、安全に働ける「余白」を残すこと。
物流のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、本来そこまで含めて設計されるべきではないでしょうか。
「あと3件」。
その画面上の数字の向こう側にも、血の通った人間がいます。
顧客には、多くのものが見えるようになりました。
では、そのシステムには、現場で起きていることがどこまで見えているのでしょうか。

